ステファニー・スタール『読書する女たち』
13冊の名著を授業形式でひも解き、現代の女たちが生き延びるすべを探すエッセイ。
この本の帯には、こう書かれています。
授業形式でひも解いている本以外にもたくさんのフェミニズムに関する本が紹介されていて、欧米におけるフェミニズムの歴史を名著と共に辿ることができます。
『読書する女たち』の著者は、娘が三歳の時に書店でベティ・フリーダンの『新しい女性の創造』を手に取り、購入。学生時代に読んだ本を再読したところから、物語が始まります。その本を手に取ったことで、母校(NYのバーナード・カレッジ)の講座(「フェミニストのテキスト講座」)を聴講するようになり、その講座で取り上げられたフェミニズムの名著についてクラスメイトや教官との議論に参加するようになります。そうやってフェミニズムのテキストに触れるうちに、自身自身のことや夫との関係、仕事のことや子育てのことなど、自分を取り巻く状況をテキストを手がかりに探求するようになります。その探求の中心になっているのが、著者と夫との関係。結婚して子どもができて、子育てをしていく中で、思い通りに生きられない制約を感じ、そこから生じる葛藤と向き合いながら、時に夫と衝突したり、良い環境を求めて引っ越したりしながら、問題を整理して、新たなスタートにつなげていきます。この本は、名著と共に成長していく著者本人のステップアップの物語でもあります。
「フェミニストのテキスト講座」の様子と著者の人生模様が同時進行で語られるので、最初は読んでいてわかりにくい印象もありますが、読み進めていくうちにだんだんテキストの内容が実際の女性の人生とリンクするように感じられて、腑に落ちてくる感じが素晴らしいです。
この本を読むとアメリカも日本も子育て期の夫婦関係については、あまり変わらないことがわかります。子育て中の私と同じように著者のステファニー・スタールもイライラを感じていて、同じような迷いの中に囚われているようなので。
でも、著者は子育て中の多忙な時期にも大学に通い、ライターとして活動し、クラスメイトと議論して、常に行動しています。それは理解ある夫のおかげもあるけど、とにかく前向きな気持ちで挑戦を続けたことが私と違うところだなぁと思いました。その差が今の私と著者のステファニー・スタールの差なのかな。
私は夫と結婚して、両親と離れて暮らすようになりました。夫は仕事で忙しく、子育てのほとんどを私が担ってきました。その間にいつのまにか、自分の事は後回しになり、それが自分にとっても当たり前になって、自分の気持ちに向き合うことはあっても、自分の気持ちに正直に行動することが少なくなっていました。子育てが一段落した今、誰も私にそうするように指示したわけではないのに、なんとなく家族を支える役割を受け入れてしまった自分がいます。自分にとって抵抗のない楽な道を、良い人の道を、深く考えずに歩いてきてしまったように思います。もっと葛藤してよかったし、葛藤の中で答えを探そうともっともがけばよかったし、誰かとこの複雑な自分の気持ちについて語り合えばよかったし、自分にできることをジタバタしながらやればよかった。
私の中に後悔がたくさんあります。
フェミニズムの歴史の中でひとつひとつ取り戻してきた女性の権利を私は、自ら少しずつ手放していったのかもしれないと、自分自身を顧みて悔しく思いました。子ども達が家を出て、働き始めた今、今までの空白を埋めていかないと!
最近夫に対して感じる心の底から湧き上がってくるイライラは、楽な道を選んでここまで生きてきてしまった自分へのイライラなのかもしれません。
『読書する女たち』で紹介されていたフェミニズムの名著
★ベティ・フリーダン『新しい女性の創造』(P.20)
★エレーヌ・ペイゲルス『アダムとエバと蛇』(P.32)
★メアリ・ウルストンクラフト『女性の権利の擁護』(P.88)
★ケイト・ショパン『目覚め』(P.114)
★シャーロット・パーキンス・ギルマン『黄色い壁紙』(P.121)
★ヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』(P.147)
★バーバラ・エーレンライク/アーリー・アッセル・ホックシールド
『グローバルウーマン』(P.240)
★ケイト・ミレット『性の政治学』(P.251)
★『ポルノグラフィ 「平等権」と「表現の自由」の間で』(P.257)
★エリカ・ジョング『飛ぶのが怖い』 (P.269)
★ケイティー・ロイフ『翌朝 セックスと恐れとフェミニズム』(P.307)
( )内のページは『読書する女たち』で取り上げられているページです。
日本にも日本のフェミニズムがあって、日本のフェミニズムの名著があるはず。名著と共にステップアップする自分になりたいです。読む人を励ます本こそが名著なのかもしれません。読む人を励ます本を探しましょう!