『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』
映画 『この世界の片隅に』 の主人公すずちゃんを苦しめた戦争。
すずちゃんだけじゃなく、たくさんの人がつらい思いをする戦争。
今から考えると日本に勝算があるとは思えない太平洋戦争をなぜ日本人は選択したのか。それを様々な角度から、たくさんの資料や記録や日記、先人の研究をもとに考察し、高校生との集中授業という形で提示したのがこの本です。
太平洋戦争に至るあんなこと、こんなことをていねいに分析しわかりやすく示してくれる加藤陽子先生に感動。
ものごとを本当にわかろうとする時、いろいろなことにあたらないといけないし、いろいろな可能性を考えなくてはならない。一つ一つことにあたる過程で、また新たな疑問が浮上する。その繰り返しの中で自分の先入観や予想が覆され真実に導かれる道のりが本当のクリエイティヴなんだと思いました。
あの時ああしていれば・・・別の選択をしていれば・・・ということは何度もあったし、本当にその後の日本の困難を予想して声を上げている人もたくさんいたのに、大きな流れをくい止めることができず戦争へと突き進んでいく様がこの本を読むとよくわかります。
大事な場面で安易とも思える選択をしてしまう人間の愚かさを感じました。後から考えるとその選択肢がその時一番簡単な道だったのではないかと思えます。戦争を回避する道を選ぶには困難がありすぎると見えたのかもしれません。"流れ" というものは恐ろしい。
島田雅彦が加藤陽子との対談の後でこんなコメントを残しています。
冷静でなければならないメディアも一緒になって熱狂するとき、肝心な批評が消え、世論は単純化する。
(『無敵の一般教養』P.218)
批評をする態度というのは加藤陽子のようにものごとを見ることかもしれない。安易な道を選ばずに一つ一つのことにあたっていきながら、自分の考えを越えていくことを繰り返していく作業。批評って簡単じゃない。簡単に批評はできないけれど、だからと言って避けてちゃいけない。批評が消えたら大変なことになる!
天才的なひらめきとか頭の良さとかじゃなく、コツコツとていねいにそして囚われのない眼でものごとを見て、考えていく地道な態度が言論界には求められているのではないかなと思います。