トマト缶
朝日新聞の2020年12月13日の記事(『安い肉 支える低賃金移民』)でイタリアの移民労働者の実体を調査している社会学者マルコ・オミッツォロさんが「トマト缶が一つ1ユーロ(126円)以下で買えるのはなぜか。現代の奴隷の移民労働者がいるからだ。私たちはこのことを知らなければならない」と訴えています。
トマト缶が100円を切ったら買いだめすることにしている私は、トマト缶がどのように作られているのかを考えたことはありませんでした。
トマト缶だけでなく豚肉などを安く提供するためには、低賃金で長時間働く移民の労働力が欠かせないのが現状みたい。そして、そのような現状を招いたのは、私のように食品に低価格を求める消費者の存在。少しでも安い商品を買う癖がついていて、特売にも弱い。
トマト缶やトマトの水煮パックは長持ちします。比較的安価なときに生のトマトをまとめ買いしても全部使い切れないことが多くて、残ったトマトの活用法に悩むから、それも面倒でトマト缶のお世話になることが多いです。トマト缶があれば作りたいときにトマトスパゲッティやミートソース作りができるので重宝しています。
今までトマト缶は収穫したトマトをその場で水煮して缶やパックに充填して作られていると単純に思っていたけど、全部が全部そういう商品ではないことを『トマト缶の黒い真実 (ヒストリカル・スタディーズ)』を読んで知りました。
実は、イタリアで移民の労働者が手摘みで収穫している加工用トマトは最高級品質のホールトマト缶や最上級ブランドの商品になるので、主にイタリア国内向けに生産されていて、私が購入する100円程度の安いトマト缶は、イタリア以外の国で機械で収穫されたトマトが原料みたい。収穫したトマトを2~3倍に濃縮して、イタリアに輸送し、イタリアの工場で水などが加えられて加工されたものが製品化されて日本に輸出され、スーパーなどで販売されているようです。
カンパニア州サレルノ県のノチェーラ・スペリオーレには、ヨーロッパ最大のトマト加工工場がある。ここではトマトペーストの缶詰とチューブを生産し、世界中へ輸出している。ただし、トマトからの加工はいっさい行っていない。主に中国からドラム缶入り濃縮トマトを輸入し、大型機械を使って再加工して個別の容器に詰めなおした後、「イタリア産」のラベルを貼って出荷している。(『トマト缶の黒い真実』P.81)
びっくりしました。
日本では平成29年9月に食品表示基準が改正され(2022年3月までは経過措置)、すべての加工食品に原料原産地表示を行うことが義務づけられたのですが、輸入した加工食品には、原材料の産地を表示する義務はないので、トマト缶の原産国名としてイタリアと表示されて販売されているのです。
(消費者庁の加工食品の原材料の産地表示のリーフレットはこちら ↓)
イタリアから全世界に向けて輸出されているトマト缶。トマトをめぐって世界的に大きな流れが構築されているので、その流れを崩すことは容易ではありません。そもそも安いトマト缶の恩恵を受けているのは消費者の私たちだし、私たちが求める商品を提供するのがスーパーマーケットの仕事だから、この仕組みが維持されているのです。
大手スーパーチェーンが求めているのは、とにかく安い商品だ。安ければ安いほどいい。(『トマト缶の黒い真実』P.108)
ある食品がスーパーで高く売られたからといって、その食品の原材料を作っている生産者の収入が増えるわけではない。もうけているのは加工会社だ。(『トマト缶の黒い真実』P.107)
私に何ができる?って考えてみたけど、トマト缶を買わない、とも言いきれません。トマト缶がないと困るから。
ただ、トマト缶の安さの秘密を知った上で、商品を選ぶだけ。生のトマトを買う機会を増やしていきたい。
日本で製造された加工食品は原材料の表示が義務づけられることになったので、原材料にこだわるのなら、やっぱり国産の物を購入するのが安心だということがわかったのは収穫でした。
最近、スパゲッティの乾麺やオリーブオイルもイタリア産で安価な物がスーパーの店頭に並んでいて時々購入します。コロナの影響で品薄になった昨年はこのスパゲッティに助けられました。これもまた、トマト缶と同じ仕組みで製造されているのでしょうか。
現在、ヨーロッパの大手スーパーチェーンで売られているイタリアの食品の多くは、何十万人という労働者が搾取されたうえで生産されている。オリーブオイル、オレンジ味の炭酸飲料、フルーツ、野菜・・・・・オーガニックを謳っていようが、原産地呼称保護(DOP) が記された「イタリア産」であろうが、同じことだ。搾取されるのは、イタリア人の場合もあるし、ほかの国籍の労働者の場合もある。(『トマト缶の黒い真実』P.280)
なんだかね。
消費者として何ができるか?
を考えながら買い物しないといけないってことなのかな。